ビットシフト
act7-B
Ωの海
「えっ!?」
不満そうに声をあげたウィリアムを連れて、ハロルドは再び最初に居た座標へと移動する。そこでようやく、ずっと掴んでいた腕を開放した。
先程もそうだったが、座標間のジャンプは、身体感覚に負荷がかかる。手を離された瞬間ウィリアムの身体はぐるんと一回転すると、天地がひっくり返った状態に着地した。
地面が反対だぞとハロルドに笑われて、慌ててもがいてようやく体勢を立て直す。
「ちょ……っと、そこまで話しておいて、ひどいですよ!」
開口一番、ウィリアムは情けない声で叫ぶ。
「お前のそもそもの疑問は解決しただろうが」
「そうですけど……だけど……」
知的好奇心に抗えないらしいウィリアムが、必死に自分を説得する言葉を探しているらしいのを見て、ハロルドは可笑しそうに笑った。
「……まぁそんな顔するな。代わりに、何かお前が見てみたいものを探してやるよ」
「え?」
「だから、Ω‐NETに眠ってそうな情報の中で、何か見てみたいものはねぇか?」
「え……っ」
突然そんなことを言われても、見てみたいものなんて、いくらでもある。
そんな中で突然何かと言われると困るのだが……すぐに指定できるものといわれて思い浮かんだのは──
「えと、じゃあ、バークレー・スタンダード社の、ビジュアルヒストリーシリーズ……最初の百巻までのどれかを」
この間、エルズの店長にもらった映像データのことだった。確か、シリーズを遡れば、千年近く昔の映像まで保存されているはずだ。
「了解」
少年のリクエストに、ハロルドは頷く。
「ホントに……見られるんですか?」
思わず聞き返すウィリアムに、男は当然だと言うように、軽く首を傾げてみせた。
「ま、そのくらいならすぐに見つかるだろ。ちょっと探してみる」
言った瞬間、ハロルドの周囲に一斉に数え切れないほどのウィンドウが開く。
その光景は自分がいつもやっている操作にも似ていたが、数も速さも普通じゃない。彼が一体何をしているのか、ウィリアムにはサッパリわからなかった。
「………………」
呆気にとられて見ていると、ハロルドは得意げに振り返る。
「あった」
「ホントに!?」
「おう。行くぞ」
腕を掴まれたと思った瞬間、まるで床が抜けたように突然身体が落ちる。
「わっ!! ちょ、さっきもですけど、転送する時は前もって何か言ってくださ……」
「慣れてねーのにごちゃごちゃ喋ると舌を噛むぞ」
今度は、先程とは少し違って、延々と落ちる感覚が続く。
ああ、こうやって都度都度感じかたが違うのはなぜなのだろう。
それに、落ちてるわけでも飛んでるわけでもないというのに、そういう感覚を選んで感じるっていうのは、何か個人差があったりするのかもしれない。
しかし……これってあれだろうか、飛行機からパラシュートを背負って飛び降りるやつ。アレみたいかもしれない。ああ、でも、空気抵抗が無いからちょっと違うか……?
一瞬が永遠のように引き伸ばされた、走馬灯のような混乱の中で、何故かそんなことを色々と考えていた。
だけど、さっきもそうだったけれど、意識への負荷が大きい割には、始めの頃ほどひどく体の感覚がバラバラになったりしない。
ゴーグルを調整してもらったおかげなのかもしれないが、たぶん、それに加えてハロルドが腕を掴んでる感じがあるのが大きいように思える。捕まれている所の感覚がハッキリ保てるので、姿勢が乱れないのだ。
(この人って……)
本当にすごい人なのかもしれないと、改めて思う。どうにもこうにも、素直に尊敬できない人物ではあるが、自分が求めてきた道の、ずっと先に居るのは確かだ。
だんだん感覚が慣れてくると、気が遠くなるような不快な感じが消えてくる。自分の意識がどこかへ移動していることだけが感じられ、今度はようやく、周囲を見渡す余裕も出てくる。
全く、不思議な光景だった。まるで、星空の中を、流星と一緒に飛んでいるようだ。無数の光の粒子が、キラキラした尾を引きながらそこらじゅうを流れている。
この一粒一粒が、Ω‐NETを行き交うデータなのだ。同じような光景を目にしたことが無いのでうまく形容できないが、もし夜風に光や色がついていたら、こんな感じかもしれない。
暗闇の中で光を楽しむものは、他にも花火とかイルミネーションとか色々あるけれど、そのどれとも違うものだった。
それにしても、さっきの光の川といい、この景色といい、何て美しい世界なのだろう。SiNEルームも素晴らしいものだけれど、これは比べ物にならない。
第一、感覚が殆ど全て直接ネットワークの中に入り込んでいると思うだけでわくわくする。
感動しながら周囲を見回すウィリアムだったが、やがて、意識の移動が終わっていることに気がついた。
「あ……」
「着いたぞ」
いつの間にかハロルドは少し離れた所に居た。三度めの正直で移動に慣れ始めていたのか、静止した感覚にも気付かないところだった。
「これは……?」
目の前には壁のようなもの立ちはだかっていた。一見、ツルンとしているがよく見ると窓かドアのようなものが一面についている。
「この壁の向こうがデータホストだ。ま、ゴーグルのOSで分かりやすく視覚化してるだけだけどな」
コンコンと壁を叩いて、ハロルドが言う。
「で、このドアみたいに見える向こうが、だいたいお前が言ってたデータがある辺り」
自信満々だった。
「そんなことどうやって?」
「どうやってって、さっき俺が探してただろう。ま、これはそう面倒な所に保管されてるデータじゃなかったから、すぐだったな」
全然説明になってない。
「これって、どこのホストなんですか?」
「国立中央ライブラリーのオープンホスト内だ。パブリックドメインの資料ばかり保管してあるところ」
「へぇ……ここが、ライブラリーの……」
納得したように頷きながら、壁にそっと手をつく少年を、ハロルドはチラリと横目で見る。
「……しっかしお前、もしかして学校では秀才良い子ちゃんタイプか?」
「はぁ?」
意味の分からない質問に眉をひそめると、ハロルドは例の嫌みなニヤニヤ笑いで続ける。
「いや、歴史ものなんて、ガキのくせに妙に行儀の良いものを見たがるなと思って。あ、それとも、歴史マニアか?」
からかわれても前ほど腹は立たない。そのかわり、呆れたようにため息をつく。
「違いますよ」
「ったく、若いくせに面白みがねぇなあ」
ハロルドは不満顔で大げさに手を広げてみせた。
「もっとこう、心ゆくまで女の裸を見たいとか、そういうリクエストを俺は期待して……」
「……何でそんなものをわざわざ見ないといけないんですか」
「何だお前、その反応はちょっと問題だぞ」
一転して心配そうに眉をひそめるハロルドに、ウィリアムは目を細めて言い返す。
「意味がわかりません。というか、サーチを作ったのハルなんですよね。そっちの方が問題ですよ」
「何がだよ」
「ロリコン」
「はぁ!?」
「変態だって言ったんですよ」
「ンだとっ、あいつはロリコンって外見には作ってねえぞ!」
「……あなたの年齢を考えれば、充分犯罪だと思います!」
「俺はまだそんな年でもねえ!」
子供同士のように言い合う二人に、やがて見かねたジョージが「そのくらいにしておけ」と、割って入る。呆れた調子で諭され、気を取り直してハロルドは壁に向かって何やら細工をはじめた。
「……何やってるんですか?」
「中に入らないといけないからな。鍵作ってる」
ハロルドはサラリと言うが、ウィリアムは目を丸くする。
「それも違法行為じゃ……」
「何だと思ってたんだよ」
「それは……」
「それを言ったら、そもそも、閉鎖されたネットワークにアクセスすること自体、限りなく黒に近いグレーなんだからな」
「い、言われてみれば……」
「だろ」
「うーん……」
頭を抱える少年を小突いて、ハロルドはあっけらかんと言った。
「仕方ねぇだろ」
ピッと小気味よい音がして、ハロルドが作ったアクセスキーが適合する。ウィリアムの目の前で、ドアは開くのではなくてかき消えた。
「俺もお前も、この先にあるものが、見たいんだから」
壁にポカリと開いた穴をくぐって中に入ると、そこは巨大な円筒形の空間だった。
壁の外に比べると幾分明るく、よく見ると周囲の壁にはびっしりと何かのデータファイルらしきものが詰まっている。
ウィリアムにはどれが何かサッパリ分からないけれど、ハロルドはひょいひょい物色しているから、たぶんデータの中身も判別できるのだろう。
「さぁてと、……まず、何が見たい?」
どことなく芝居がかった口調で、ハロルドが少年に問う。
「興味ありますから」
「1000巻、全部……あるんですか?」
ある、と、男は短く答えた。
見られるなら、古いものが見たい。自分たちの世界に繋がる人の歴史の、ずっとずっと最初の方。
「……古いやつがいいです」
「そうだなあ……じゃあ、これとかはどうだ」
ファイルのひとつを手に取って、ポンと投げる。アッと思った瞬間に辺りはフッと暗くなり、花火が開くように映像が再生される。
「あ……」
カラーの映像だった。保存状態は悪くない。
晴れた屋外、赤いカーテンの向こうから、痩せた男が姿を現す。
割れるような歓声。大統領と紹介されたその男は、僅かに緊張した面持ちで壇上に上っていく──
「これは……」
「大統領就任式だとさ。えーと……西暦二〇〇九年一月二〇日」
「西暦!?」
西暦二〇〇九年といえば、今から八百年近くも昔の、今のガイア連邦共和国が生まれる以前の映像だ。
西暦代なんて、歴史の授業でもまともに扱わないし、当然、そんな時代の映像なんて、初めて目にするものだ。
「アメリカって知ってるか?」
演説を眺めるウィリアムに、ハロルドが言う。大陸の名前ですかと言うと、国の名だと答えた。
「タウラビア自治区が出来る前にあった、当時の大国だ」
「へぇ……詳しいんですね」
「俺は歴史マニアだからな。どっちかというと」
何世紀か前に南北アメリカ大陸は閉鎖されており、現在は人は住んでいない。
タウラビアに人が住んでいた時代のことだってウィリアム達にすれば歴史の中での話なのに、そのもっともっと前なんて、何だか、別の世界の話のようだ。
「でも、この映像……案外変わってないんですね、大昔から」
「ま、あんまり進歩もしてねぇからな」
言いながら別のファイルを放り投げる。大統領の演説に変わって現れたのは、国際月面基地の完成記念式典。
これは確か、二十一世紀の終わりの方のはず。歴史の授業で写真を見たことがある。年号も憶えた気がする。何年だったか思い出そうとしたけれど、興奮しているせいか、パッとは出て来なかった。
「すごいな……月……」
今も月面にはかつての基地が残っているはずだが、人類はもう何百年も月に降り立ってはいない。宇宙船どころか、現在は大陸間移動にすら、かつての時代と比べ。何十倍もの時間がかかる。
人類は、泥沼の戦争の果てにひとつになり、輝かしい発展の歴史を進んで、そして、いつしか立ち止まった。
少年は今、その長い長い長い時間の、一番先端に立っている。
「昔の映像ってのは、面白いもんだよな」
言葉を失うウィリアムの隣で、ハロルドが言う。
「そういえば、サーチライトのコアAI……」
ハロルドの言葉に、少年は彼の方を向く。
「マーキュリーAI……」
「怖くなった、って、前言ったけどな。俺はあれの中身を、正直、半分も把握出来てない」
「え……?」
「前に、開発者のクライトン博士の論文を読み漁ってる時に、偶然試作プログラムを見つけてな」
「完成したマーキュリーAIの、何代か前のデータらしい。そのまま組み込める状態のものだったから、使わせてもらっただけでな」
「少しづつ解析はしてるが、どうしても資料の見つからないライブラリなんかが多くて、なかなか進まねぇ」
情けねえよな、と、ハロルドは呟いた。そして、二人の頭の上をゆっくりと飛んでいく宇宙船の映像を見上げる。
「たった一世紀前の技術ですら、今の俺達は追いつけない。どうしてか分かるか?」
男の横顔は真面目だった。そして、腕を伸ばして映像の端をちょっとつまむ。
「忘れるからだ」
スッと引いた手の動きに合わせて、映像は無数の光の粒に分解され、火の粉のようにゆっくり落ちながら消えていく。
「人間なんてあっという間に死ぬからな」
光の名残を手のひらで受け止めて、少しだけセンチメンタルな口調で、静かに続ける。
「ここは海の底だ。俺達が失ったものが殆どぜんぶ沈んでる。失ったってことすら、忘れてるものもな」
言葉は次々と暗闇に放り出されては、すぐに消えていった。口を挟む気にはなれず、少年は黙って男の話を聞いていた。
「科学とか、技術ってのはな、長い時間が要る。そうしないと前に進まねぇ」
「だから情報が要るんだよ。人と違って残るからな。文明が生き永らえていくための、遺伝子みたいなもんだ。死んでも死んでも続く」
ハロルドの言葉は抽象的だったが、何となく、ウィリアムにも分かる気がした。たぶん、同じ理由で少年はSiNEルーム(あの部屋)に惹かれたのだから。
「1ビットダイビングっていうのは、それを掘り起こすためのものだ。俺は知りたいからな、もっともっと」
わかったか、と、偉そうに言って、ハロルドは笑った。
フワフワと空間に身体を浮かべて、しばし思い思いの映像を引っ張り出しては見ていた二人だったが、やがてジョージからの通信がそれを邪魔する。
《ハロルド、そろそろ時間だ。準備も出来とる》
「ん……おお、わかった」
見ていた映像を消して、ハロルドは何やらジョージからデータを受け取っているようだった。
《気をつけるんじゃぞ》
「おう、大丈夫だ。もうポートは分かってんだからヘマはしないさ」
「……ハル?」
ウィリアムも見ていたファイルを閉じる。準備とは、何のことだろう。
「ちょっと行ってくる。お前はここで適当に遊んだらジョージに終了してもらえ。制限時間も教えてくれるだろうから、無理して長居はすんなよ」
不思議そうに見つめる少年に気付いたらしいハロルドが、そう言ってスッと手を上げる。それから、ふと思い出したように口を開いた。
「あ、そうだ。気にしてるみたいだから一応説明するが、1ビットダイビングは確かにグレーだが、違法行為にはあたらないぞ。閉鎖法ではデータへのアクセス手段が禁止されただけで、アクセス自体は規制されてないからな」
「へ理屈……?」
「うるせぇな。立派な抜け穴ってもんだ」
《ハロルド、まだか?》
「あー分かった分かった。すぐ行く」
男の言葉に、少年は改めて反応した。
「行くってどこへ!?」
「いいトコ」
不敵に笑うハロルドの前にパッと彼一人まるまる入るくらいの大きなウインドウが現れたと思うと、ザアッとハロルドが入力したコマンドが流れ、ウインドウの形に空間が切り取られる。
ハロルドの肩越しに向こうが見えるけれど、眩しくてよく見えない。先程見た通信パケットの川のような、強い光だ。
「じゃあな──」
「あ!」
光の渦の中へ、すうっとハロルドの姿が消えていく刹那、ウィリアムは反射的に男の腕を掴んでいた。
がたっ
「じーちゃ?」
がたんという大きな物音に、眠っていたアリスが目を覚ます。大きな目をぱちくりさせる孫が、膝の上に上ってくるまで、ジョージは気付かず画面を凝視していた。
「お? おお、アリス、起きたのか」
ごそごそ動き回ろうとするアリスを慌てて抱いて、目線をモニタに戻す。
「れーだ!」
「そうだぞ、おっと、今は触るな。後でな」
「あう」
祖父の作る機械が大好きな少女は、嬉しそうに画面を覗き込む。しかし、孫をあやしながら、ジョージは焦っているようだった。
「参ったのう……」
「じいちゃ? どおちた?」
深いしわの刻まれた顔を、ぺたぺたと暖かい手のひらが触れる。
「ウィリアムが付いて行ってしまったんじゃよ。ハロルドに」
「はう?」
「これは困った……」
孫に話しかけながら追いかける通信ログには、ウィリアムとハロルド二人分の記録が表示されている。今は、元居た出たホストから、別の目的地へと移動の途中。
──想定外に、二人一緒に。
おそらくハロルドが転送コマンドを入力している最中に、ウィリアムが彼に触れたのだろうと思われた。
今日は、初心者のウィリアムに何かあった時にはすぐ助けられるようにと、特別にハロルド側の命令がウィリアムに直接届くよう設定して潜っていたのだ。
「もしもの時のためにと思ったんじゃが……裏目に出てしまったのう……」
「れーだ! れーだ、ひかりう!」
「もうじきあっちに着いてしまう。今更、止めるわけにもいかんし……」
「れーだ! はおるろの! う!」
「ハロルドに、任せるしか無いか……」
アリスの声だけが明るく響く中、それぞれの場所に座ったまま、ピクリとも動かないウィリアムとハロルドに、ジョージは心配そうに目を向けた。
「こんの……ど阿呆っ! 何でついてくんだよ!!」
「し、知りませんよっ!……まさかちょっと触っただけで僕まで移動するとか、思いませんしっ!」
「フツーはしねぇよ!」
「じゃあ僕、悪くないじゃないですかっ!」
「悪い悪くねぇの問題じゃねえ!」
「知りませんってば! だいたい、教えてくれる気がないなら、僕が居ない時にやってくださいよ! 気になるじゃないですか!」
光の中、言い合うウィリアムとハロルドはどこかへ運ばれていく。
轟々たる光子の濁流に四方を囲まれているのに、ハロルドの怒鳴り声の他は、奇妙なほどに静寂。視覚と聴覚が同期していないような、妙な違和感に囚われてしまう。
最初は口ごたえする元気のあったウィリアムだったが、徐々に疲れも出ているのか、フッと意識が遠のくような感覚に襲われる。ぐらりと揺らぐ少年の肩を、ハロルドが慌てて掴んだ。
「あ……」
「おい、しっかりしろ。こんな所で落ちられたら、さすがにサルベージできねぇ」
さっきまでカンカンに怒っていたのに、うってかわって心配そうに低く言う。
「サルベージって、何を……」
「お前の意識だよ。廃人になりたいか?」
先程と同じように、ハロルドに捕まれる感覚を頼りに意識を持たせる。やはり彼が大人だからだろうか。手はやたら大きくて、ふうっと落ちていきそうになる体が吸い寄せられる、そんな感じだ。
「……危険だって言ってる」
真面目に言ったハロルドに、少年はしおらしくすみませんと呟いた。
コマンド入力をしている途中に手を出してしまったのは、彼がどこに行くつもりなのか、好奇心が抑えられなかったからだ。
こんなことになるとは思わなかったといえ、邪魔してしまうことに思い至らなかったわけではない。
「……転送中だから、今強制終了するのはまずい。持ちそうか?」
素直に俯くウィリアムに、気遣うように声をかける。
「今のところは」
「じゃあ我慢してろ。離れんなよ」
気を取り直してあっさりと言う。少年も覚悟したように頷いた。
「……どこ、行くんですか?」
「南極だ」
短い答えに、先日学校で見た光景を思い出す。
「SPIC……」
入り組んだ本の森で、少女は誰かにそれを探していた。連邦政府の最重要施設のひとつである、南極情報通信センター(SPIC)の──
「管理ポートの……認証キー……」
「あ?」
「この前、サーチが探してた……」
「あー……そういや、お前、見てたんだったな」
「この……悪党。あれは、正真正銘、犯罪ですよ」
「……全くだ」
ハロルドは少し笑った。言葉に反して、ウィリアムも弱々しく微笑む。全く、出鱈目な男だ。けれど、彼が目にするものを、自分だって見たいと思った。
「何しに……いくんですか。Ω‐NETの中心に」
曖昧になる意識を手放さないように、必死に言葉を絞り出す。ハロルドはきっぱりと答えた。
「────会いに行くのさ、女王に」
To be continued.
読んでくれてありがとう!
操作ヘルプ テキストで読む キャラクター紹介 作品情報
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Studio F# Twitter
 
 



ウィリアム・レリック

本編主人公。
ネオポリスアカデミー付属ハイスクール1年生。
優等生で生徒会の書記も務めるが、同学年にはあまり友人は居ない。
コンピュータ・マニアで、学校のSiNEルームに入り浸っている。




サーチライト

ウィリアムが学校のSiNEルームで出会った謎の少女。
自ら「Ω‐NET自動巡回システム対話インターフェースユニット、コードネーム『サーチライト』」と名乗る。
ネットから情報を集めるクローラープログラムの一種であるらしい。




エリカ・グレイン

ネオポリスアカデミー付属ハイスクール1年生。
ウィリアムのクラスメートであり、生徒会で会計を務める。
生徒会長に心酔しているらしい。




サナエ・A・ノースランド

ネオポリスアカデミー付属ハイスクール2年生。
生徒会長を務める。
知的な才女タイプだが、ウィリアムのことを、入学当時から妙に気に入っている。




リュシアン・エンジェル

ネオポリスアカデミー付属ハイスクール2年生。
生徒会副会長を務める。
人当たりのよいプレイボーイで女の子が大好きだが、サナエのことは恐れている。

ウィル サーチ エリカ サナエ リュシアン
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